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1型糖尿病の人が糖質制限する意義


糖質制限の先進国のスウェーデンでさえも、1型糖尿病の人の糖質制限継続は難しいことを、前の記事で紹介しました。
 
その理由についてスタートラインが違うこと、ゴールが見えにくいことを書きましたね。


では、1型糖尿病の人が糖質制限をするメリットはないのか?

とんでもない、糖質制限は1型糖尿病の方にも大きなメリットがあります。


前の記事で何度も書きましたが、1型糖尿病の方は基礎インスリン分泌がないので血糖値が不安定になりがちです。

いきなり血糖が上がったり、かと思えば、ちょっと風邪を引いただけで低血糖からケトアシドーシスの心配をしなくてはなりません。


前の記事で紹介した論文の中にこういうグラフがあります。

Why Low-carb is beneficial to type 1 diabetes.jpg
Figure1

これは、糖質制限する前と後の血糖値の変動を示したものです。

注目してほしいのは、その変動幅が、糖質制限をしている人ではすごく小さくなっていることです。

つまり、糖質制限を続けていくと、激しい低血糖や高血糖に苦しむ機会が確実に少なくなるのです。


さらにその変動幅が少ないので、基礎分泌量に該当するインスリンを低いところに保っても低血糖発作で倒れる危険性が減るのです。

具体的に言えば、ベースラインを下げられるということは、長期作動型インスリン投与量を減らすこともできるということです。

これにより、ゆっくりとですが余分な体脂肪も減っていきます。



でも、このような効果は、糖質制限に理解のある主治医の協力がないと達成できません。

糖質制限のメカニズムに目を背ける先生方の頭の中にはこの図の左側の血糖値変動しか浮かんできません。

そうすると、糖質をたくさん食べさせて血糖値の変動の真ん中を高いところに持って来ようとするわけです。


「変動するのが当たり前だからベースラインを下げたら低血糖で患者が倒れるかもしれない。それは怖いから糖質食べさせて高く保とう。血糖上がり過ぎたらインスリン増やせばいいじゃん。その方が安心だし。」

というレベルの理解力です。

(ま、ほんとうはバカなふりをしているだけだと思いますけど。)


こういう先生たちは、患者さんに糖質を食べさせてHbA1cを高めに保とうとします。

それを理由にインスリン量をなかなかすぐには減らしたがらないのです。

そうすると、過剰なインスリンの効果もあって、なかなか痩せません。



糖質制限を推奨する医師は、糖質制限すれば右側のようになることをよく理解しています。

それが患者さんの体、血管の健康にとってどれほど素晴らしいことなのかも十二分に理解しています。

ベースラインを下げても大丈夫なこともよく理解しているので、インスリンの投与量も減らすことができます。


だからこそ、日本糖尿病学会のえらいさんたちからどれほどネガティブキャンペーンをかけられても、糖質制限を叫び続けているのです。


将来的に、糖尿病の合併症で悩む危険性を少しでも下げたければ、糖質制限の仕組みとそれにより患者さんが受けるベネフィット、これを患者さん自身が理解し、把握するとともに、よくわかっている先生に管理してもらうのがベストです。

今の日本ではなかなか難しいのですけれども。




・・・1型糖尿病で主治医の理解がなく、近くには糖質制限を理解している糖尿病専門医がいなくて、ひとりで糖質制限を悶々としながら続けている人に、ぜひ読んでほしい本があります。

傍らにおいて、何度も開いて読んでほしい本、これです。

バーンスタイン医師の糖尿病の解決―正常血糖値を得るための完全ガイド


少し、難しい本です。

でも、自らが1型糖尿病で、数多くの合併症が現れて、死を考えるようになったバーンスタインさんが、試行錯誤の末にたどり着いたのが糖質制限だったのです。

現代と異なり、誰一人として糖質制限を教えてくれる人も応援してくれる人もいなかった1970年代。

その時代に合って彼は、医者でもないのに、糖質制限がベストであると言う結論に、自らの努力でたどり着いたのです。


そんな彼の、1型糖尿病患者としての糖質制限への向き合い方が、すべて込められています。

私ではこれ以上のsuggestionを、1型糖尿病患者で糖質制限に取り組んでいる人に差し上げることができません。



1型糖尿病患者さんの戦いは、特に主治医が糖質制限に無理解だと、長くて孤独なものに感じられがちです。

でも、決して「あきらめて投げ出すべきもの」ではありません。


もちろん、継続的な自己管理はこれからも必要です。

でも、糖質制限を組み合わせることで糖尿病の合併症から免れ続けることができます。

それは新しい人生が開けるほどの未来につながります(実際、バーンスタイン医師は糖質制限で糖尿病の諸症状が消えてから医学部に入り直して医師になっています)。


バーンスタインという偉大な先駆者が自分自身の半生を振り返って詳細なガイドマップを用意してくれているのです。

バーンスタイン医師の糖尿病の解決―正常血糖値を得るための完全ガイド

これを利用させていただかない手はないと思うのです。





ここ2回分の記事は、コメントをいただいた方を含めて、1型糖尿病の患者さんへの文章とさせていただきました。

遠くから、こういう形での応援しかできませんが、回答になりましたでしょうか。


1.糖質制限を続けられなくて悶々としている1型糖尿病患者はスウェーデンにもたくさんいること。

2.バーンスタイン医師は厳密に続けることのできている4人に1人のお手本であること。

3.そして、その彼の本があること(ちょっと難しいけど^^;)。


覚えておいてください。

なかなかモチベーションは続かないかもしれませんが、ときにはさぼってもいいです。

25%に入れなくても、50%に入れますように。


(前の記事も参照ください)

⇒ 1型糖尿病患者さんの糖質制限の成功率




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2014年2月14日 18:40

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コメント(4)

はじめまして。先生のお嫌いな(笑)糖尿病療養指導士として働いている管理栄養士です。

私は、糖質制限食を正しい理論のもと実践すればやせることを理解しています。生化学と代謝のしくみを把握すれば、その理論が正しいことはわかります。
患者さんが、それで痩せられて、コントロール改善となった症例ももっています。

ただ、
その上で、納得いかないことがあるので、コメントお願いします。

江部先生がお元気なのは
糖質制限といっても、実はふすまパン他を主食にすることでビタミン、ミネラル、GABAといわれる生理活性物質が多い、穀類の種皮が多いふすまとか胚芽とか…を召し上がっていて、肉を食べるにしても低脂質の赤身をシンプルな調理、且つ、それを調理する油脂に関してさすが医師、動脈硬化予防に向けて適切な脂肪酸ほ含むものを選んでおられ、
さらに、野菜を食べるだの、運動をする…
これは、べつに糖質制限でなくとも、健康なライフスタイル…

これらをすべて実践しているからです。
理論を理解している私からみれば、そんなのは【あたりまえ】

一般の患者さんは、ここまで理解できないし、知識もない。
そして、実践するにはお金がかかる。
野菜が高騰しているのはご存知ですか?
必要エネルギーを肉ほかで補うことで、どれだけ食費が高くなるかご存知ですか?
お金がない人は、中途半端な方法に走っています。
ご飯を一切たべない、そしてセロカロリーコーラを飲みまくる、とかね。

また、半端な知識で糖質制限を続けると、
【胚芽や種皮のよい物質】をとることが一切なくなり、
且つ、肉は脂質の多い安いバラ肉を食べ続け、
野菜は興味がないのか食べてない…
こんな食事になり、
こんな患者さんは動脈硬化指数がどんどん悪化していき、遺伝子のタイプによっては高尿酸血症まで発症、
全身の毛細血管はぼろぼろです。
知識が半端なまま実践すると、それは『害』になってしまいます。

バーンスタインは実際、大血管障害ですが、心筋梗塞で亡くなられたのをご存知ですか?

私は、中途半端な知識にて、
自分がうまく行ったから人にも勧める…
そのことが、いかに大勢の失敗者を産んでいるのかも、知っていただきたいと思います。

ましてや、
1型糖尿病の成因には、そのヒトの体内でウィルス感染が起こって膵臓にダメージがあった上で発症している方たちもいるんです。

そんな人に糖質制限…何と危険なこと。

というか、
太ってもいないので。

食べ方に無理な制限かけたり、カロリー制限なんて教えなくても、BS400mg/dl以上、HbA1c10%以上の方を、私はコントロールしています。

やりたい方がされるのは自由ですが、
私たちの仕事を邪魔しないでください。
私からしたら、患者さんに正しい知識を伝えることが重要で、どんな食事療法をするかの方法論なんてどうでもよいのです。

したがって、糖質制限をする必要もない。

この現実、どう思われますか?


あれ?バーンスタイン先生って亡くなったんですか?昨年末m3でインタビューしてましたよね?アトキンス・ダイエットのアトキンスと勘違いされてるのかな?

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